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自由という欠落
第10章 貴女という補い
紬をとうとう救えなかった。
世間は陽子に同情を寄せても、陽子は自分を許さない。今や懺悔も届かない、紬の魂に呪われるべきだ。
それでも、陽子には仕事がある。紬が一人で逝くことを選んでまで、生かしたかった少女を生かす。いつかまひるがのはなの想いに応えられる時が来るまで、陽子が彼女の支えになる。教師として。血の繋がらない姉として。
陽子こそ誰かのためになれているか。
まひるは明るくなったと思う。中学校にいた時分、陽子が覚えている限りでは、彼女には親しい友人がいなかった。それがおそらくのはなや心陽が賑やかなせいで、少なくとも見える範囲では、むしろ紬といた時分より生気を感じる。父親は仕事が続いている。まひるがコミュニケーションをとるようになったのも、大きいのではないか。残った負債は、母親の親族が彼に弁護士を紹介して、始末させた。決して円滑ではなかった所以、あのあとも陽子はしばらくはまひるを佳乃の家に居候させておいたが、家が落ち着いてからは帰宅させて、今日の卒業式は両親も揃う。陽子は、七年ぶりに彼らを見る。
…──紬先輩に何も返せなかった私が、これからだって誰かにしてあげられることなんてないんです。
…──もう死にたいとは思わないけど、愛されたいとも思いません。紬先輩以外の誰かを好きになる方が、私には不幸なことです。
一昨日の帰りにも、まひるは話していた。
ここまで変わらない人間が存在することにも感心する一方で、陽子はのはなに同情する。丹羽の事業拡大で、春からのはなは、まひると同じ新店舗を任されることになっている。父親に頼んで同棲も許されたのに、のはなの本意がまひるに伝わるまで、なかなか険しいのではないか。