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自由という欠落
第10章 貴女という補い
「幸せは、……ううん、正解は、十人いれば十通りあるよ。陽子。それにまだ皆、いくらでも明日があるから」
「私がのはなちゃんなら、待てない」
「だからって陽子は応援する?のはなちゃんの恋愛成就。つまりそれは、心陽ちゃんの失恋だよ」
「…………」
「それに、多分、まひるちゃんとのはなちゃんはヤッてる。一回生の頃、結構ヤッてたんでしょ。言わないだけで、今でも絶対──…」
「佳乃。教育者が、朝からそういう話しないの」
陽子が咎めると、佳乃は彼女らしからぬしおらしい顔で黙り込んだ。
「よし、の……?」
俯いたまま、佳乃は神妙に眉根を寄せていた。何か重大な仕事を失念してでもいた顔だ。
陽子が様子を伺っていると、佳乃は立ち上がって、原色の刺繍がサイドに入ったチャコールグレーのスカートをふわふわと揺らしながら歩いていった。クローゼットの並んだ一角、佳乃が宿泊する時のために彼女に与えた扉を開く。
「陽子。今から、私達の話をする。少し目、瞑って」
「え、……こう?」
ややあって、左手が持ち上げられたかと思うや、薬指に硬質なものが嵌め込まれていく感じがした。
「さっきはディスってごめんね。灰色でも綺麗だよ。私が陽子をキラキラさせてあげる。うん。華やか」
語尾にハートが付いているのではないかといった調子の佳乃が、続いて陽子に目を開けるよう促す。陽子が従うと、指に眩しいほどの輝きが灯っていた。