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自由という欠落
第3章 選べない貴女

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 彼女が舞台に現れていると、とりとめない日常を模した風なドラマでも、劇的になる。



 村辺ゆきがヒロインを演じた学園ドラマは、称揚の嵐に見送られて幕を閉じた。


 あらすじは単純明快だった。

 ヒロインの雪歩(ゆきほ)には、九つ上の兄がいた。高校二年生に上がった春、雪歩はクラスの担任になった教師の顔を見て、はたとする。彼こそ、自分が幼い時分に家出をした兄だったからだ。
 兄、和則を保護して、更生させて進学、大学の面倒まで見た人物は、雪歩と恋仲にある雄二の父親だった。彼も昔は両親と折り合いがつかず、和則の理解者になり得たのである。それでなくても、ひねくれたのが将来の義娘になろう雪歩の実兄であれば、彼が面倒を見たところで減るものではない、そう考えるに至ったのだという。


 父親は幼い恋の移り気を危ぶまなかったのか。家出の補翼は法が裁くべき対象ではなかったか。


 魅せるためのフィクションに、そうした指摘はいらない。


 ゆきが雪歩として喜怒哀楽を見せる中に、有限に内在している無限を生きる中に、観客らはリアルを見出す。彼女が舞台という虚構で関わる人物達との交流に、きらびやかなロマンを見出せられれば、それは舞台として成立する。





 多感な新入生らから盛大な拍手を集めた演じ手は、しよりの自慢の親友だ。
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