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自由という欠落
第3章 選べない貴女
「さぁ、本番が終わったこれからが、気を抜けないね。新入生たくさん勧誘しないと」
「演劇部の勧誘って、博打だよな。やりたがらない子は、体験もしてくんねぇし」
「体育会系なら、模擬試合してもらったりすると、割りとハマってくれるらしいのにね」
「ウチは台本読むのを恥ずかしがられた時点で、アウトだから」
五限目の講義を締めるチャイムが鳴ると、演劇部の部室も密度を増した。アルバイトへ向かった顔触れを除いて、今日もぞろぞろと部員が集う。
「先輩はどう思いますか」
「花園先輩、早く来てくれないかな。先輩が口説きに行ってくれたら、何人かはキャッチ成功しそう」
「今年の新歓、やばかったもんね。ゆき先輩の相手役で、まさかあんなに騒がれるとは」
「花園先輩には悪いけど、見馴れていると普通っていうか、私達はカッコイイとか思わないけどね」
「仕方ないよ。花園先輩は、そういうキャラじゃないし」
「ねーえー!せんぱーい」
「あっ、私?」
一学年下の部員らの輪にいた一人の語調が強まるや、しよりは書いていたレポートから顔を上げた。まるきり蚊帳の外にいたつもりでいた。
「芳樹(よしき)くんね。新入生の子達のツボだったみたいだね」
「次の文化祭の舞台の主役は、しより先輩と花園先輩の接戦ですね」
「しより先輩もカッコイイですもんね。私は断然、先輩派です。お兄さん役、さすがでした」
「冗談じゃないわ、そんなの」
甘ったるいソプラノが、今しがたまでののほほんとした談笑を、遮った。
声を辿ると、開いた扉に、この演劇部を代表する少女、すなわちゆきが立っていた。見るからに新入生と見られる少女ら二人を従えて。