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自由という欠落
第3章 選べない貴女
「入部希望者?」
「こんにちは」
「初めまして」
初々しい少女らは、礼儀正しい程度に会釈した。
一人はくすんだピンクの髪。ゆきのような天使の輪を浮かべた黒髪にこそ敵わなくても、桜の色素をそのまま染み込ませてきたように、綺麗な髪だ。顔のパーツの一つ一つは洗練されたバランスをとって、美人と称する以外にないくせに、少女趣味なパステルカラーのワンピースがしっくりきている。もう一方の少女の方も、清楚な顔立ちに整った肢体、あでやかな姫系の洋服がとても上品でフォーマルに見える。姿勢がものすごく良い。
新参者の少女らは、ゆきが文化祭の舞台の主役候補として声をかけてきたらしい。
もっとも、学内に固定のファンを持つゆきがヒロインを辞退しようとは、部員の全員が予想だにしていなかった。一同が遠回しに抗議する中、ゆきは主張を曲げない。
趣味の範囲の演劇部で、同じ顔触ればかりが中心になって活動しては部活動の意味がない。もっと多くの学生達が、芝居の楽しみを味わうべきだ。特に入学してまもない新入生には、幅広い経験を積む一環としても、こうした機会が必要で。…………
「というのは建前で、ゆきは芳樹くんとの相手役が、そんなに嫌だったの?」
「嫌じゃないし、あいつのこと、嫌いじゃないけど……」
男の子の演じる男役は、私の美学に合わないんだ。
ゆきの簡明な言い分は、女性ばかりの歌劇団に傾倒している彼女らしい、且つ、彼女にしてみれば看過出来ない問題だった。