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自由という欠落
第3章 選べない貴女
* * * * * * *
かの有名な四大悲劇『オセロー』は、奸計と悋気に翻弄される恋人達の愛憎劇だ。
しんとした講義室に腰を下ろして、のはなは台本を捲っていた。
教員が来るまで三十分ある。
使用されない時間帯の空き教室が、好きだ。現実と完全に隔離されるわけではない、それでいて自分を取り巻くあらゆるものから束の間逃れられる気分に浸れる、秘密基地を気取った空間が。
仮入部という立ち位置で文化祭の舞台に参加することになった演劇部での読み合わせが、午後に始まる。
事の起こりは二日前、まひると帰路に向かっていた日暮れのことだ。
のはなのいた中等部、高等部とは違って、大学にある演劇部は、今回のように部長の一存で配役が決まるケースがあるらしい。歳を重ねると、教育施設は課外活動まで自由になるものなのかとカルチャーショックを受けたのは、記憶に新しい。
「はなちゃん?」
扉の開く音を連れて、聞き知った声がした。
「はるちゃんっ?!」
後ろ暗い行為の最中でもないのに、のはなの耳は、強い電流を当てられた直後よろしく軽く痺れる。心なしか忙しなくなった鼓動が、余韻を引きずる。
「今週はまひるが休み?」
「レポートを提出に行ってるの。早かったのね」
「登校したばかりだからね。例の台本?」
「ええ」
先週の今日、のはなは学校を休んでいた。学部の違う心陽についての情報は、まだ乏しい。火曜日の午前中、彼女はフリーだったのか。