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自由という欠落
第3章 選べない貴女



「はぁ……はなちゃん今日も可愛い。お姫様役、ピッタリだね」

「はるちゃんこそ可愛いわ。私なんて、きっとまひるのついでに声をかけていただけただけ」

「謙遜家なんだから。ほんと健気」



 心陽の強い目許に煌めく双眸が、のはなに底知れない温かみを注ぐ。


 のはなは怯む。

 心陽もまひるも、何故、こうも優しく他人を見つめられるのだ。一昨日初対面だった、あの演劇部の村辺ゆきにしても。



「まひるは、きっと私が一緒じゃないと、舞台の話は引き受けなかった。傍から見れば、私達はとても仲の良い友達同士に過ぎないから。気を遣って下さったんだわ。実際、このデズデモーナって、まひるの方が似合ってる」

「あの子は服装でガラッと変わるからね。はなちゃんは、絶対こっちだけど」

「…………」

「仲の良い友達同士に過ぎないって?……違うの?」

「え、あ、ううん。知り合ってまもないから、不思議な感じがしているだけ」

「出逢いと別れの春だもん。一緒にいる時間が短くたって、すごく仲良しに見られることがあったって、構わないじゃない」

「ふふ、そうね」


 ゆきは何故、芝居経験のない新入生を舞台の主役に選んだのか。のはなには理解出来ない。葦田しよりとの会話から大まかな事情は察したものの、あのドールと言われても頷ける容姿の上級生のわがままを踏まえた上でも、よりによって何故、のはなのような人間が。


 唯一、考えつく所以を絞り出すなら、のはなの踏み出した最後の学生生活に、神が添えた花。

 不自由で、自分の肉体を自分のものにも出来ないのはなに与えられた、せめてもの娯楽だ。やがて何十年にも渡る牢獄へ送られるのはなへの、惻隠の餞。
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