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自由という欠落
第3章 選べない貴女
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今日最後の講義をこなして、まひるはのはなと連れ立って、二日振りに訪う別館へ向かった。入り組んだ回廊に並んだ扉はどれも画一的で、ここら一帯は各々の課外活動の団体が所有している。
演劇部の部室には、部長のゆきを始め、会計係の葦田しより、副部長の花園芳樹を含む、大多数の部員達がいた。彼らの大方が三回生、二回生だ。
有名な戯曲の台本は、原作と比較して多くのシーンが削られていた。学祭当日、各団体に与えられる時間は限りがあって、尺内に収める必要がある。
中学校に通っていた時分から、ショッピングモールか書店が休日に足を向ける先だったまひるにとって、『オセロー』という作品は親しみ深い。本来であれば第一幕の舞台がヴェニスの地というのは論をまたなかったところ、まひる達に配られていた台本では、持ち時間の都合上、戦を終えた主人公らが島で落ち合うシーンに始まっていた。オセローとデズデモーナの馴れ初め。高潔な箱入り娘のヒロインが何故、荒野に彷徨うオセローを慕うに至ったか。冒頭で語られるはずの内情も、再会のシーンに書き込まれていた。
筋書きは理解していても、芝居のノウハウはまるきり持たない。声楽を嗜んでいたという、それでなくてもヒロインのデズデモーナとどこか出生の似通うのはなに半ばつられるようにして、まひるは台本読みに参加していた。一区切りついたところで、ゆきの休みの合図がかかる。
「お疲れ様、批評いこうか。気になったところのあった人、挙手して」
「はい」
「野田さん、どうぞ」
この部の舞台は、監督を設けないらしい。稽古に参加している部員らが、評価を出し合う。