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自由という欠落
第3章 選べない貴女
「お姉ちゃん、昔、どうだった」
清々しい渋みを孕むアールグレイを喉に流して、心陽は目蓋の裏側に、知り合ったばかりの同級生の心像を呼ぶ。昨日から幾度となく頭の中で反芻している、穏やかな昼下がりの会話が今一度、心陽の胸を締めつけた。
「好きになった先輩をここに連れてきて、一晩かけて口説いたんでしょ。……佳乃(よしの)さんが知ったら、怒られそう。ね、黙っているから、詳しく話して」
「貴女も同じことするの?」
「参考にする」
「やめなさい。鬱陶しいだけよ」
「…………」
「第一、嘘だし」
耳を疑う告白だった。
地味で模範的な姉の、数少ない武勇伝。そこだけが陽子の尊敬すべき箇所ではなくても、心陽にとって憧れるだけのロマンはあった。
「嘘というのは、違うかな」
「失敗したの?」
昔は、今に比べて朗らかだった。姉の口から諧謔も出なくなって、四年経つか。それでも自分や恋人には人間らしい顔を見せる陽子は、彼女自らの来し方のしくじりを、妹にまで倣わせまいとしていたのか。
心陽が頭をひねっていると、意地悪な姉はまたぞろ首を横に振った。