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自由という欠落
第3章 選べない貴女

* * * * * * *


「また、すごい格好ですね。俺と会えるからと言って、ここまでやってもらわなくても構いませんよ」


 のはなの一歩先を歩いていた男は振り返るや、真新しいスプリングコートを脱いだ。


 月の昇った街は冷え込む。

 今しがたまでのはなと男が夕餉を囲っていた店を出ると、袖がレース生地に切り替えてあるカットソーでは腕を抱きたくなるほどの余寒が強まっていた。

 背幅のある男の着込んでいたアウターは、のはなからすれば薄手のブランケットにもなろうサイズだ。のはなの肩に、それがのしかかってきた。


「目立ちますから」


「…………」



 この男のために、めかしこみなどするものか。

 のはなは再び前方を向いた男を追って、もとより重たかった足どりが更に重くなるのを自覚しながら、唇を噛む。



 トートバッグには、教科書やコスメポーチなどの荷物が入ったままだ。

 巻いた黒髪にはパールのついたピンク色のリボンを飾って、カットソーはレースの他に、しっかりリボンもついている。透けた袖には小花のモチーフ。今朝に下ろしたばかりのペンダントは、昨日話していた心陽も購入したらしい。ウサギの耳のついた香水瓶にイースターのカラフルな卵の入ったトップを、のはながピンクを選んだ一方、心陽はホワイトだと言っていた。スカートはミニ丈。ドロワーズの裾にあしらってある脚がツイストされたリボンが覗くよう、コーディネートした。


 男が顔を顰める格好をしていたのは、学校を出て直接ここまで来たからだ。肩にかかった重みには、数時間前に部室で広げていた台本も含んでいる。
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