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自由という欠落
第3章 選べない貴女
のはなと男は、みだりがましいネオンが明滅する一角に建つ連れ込み宿へ入っていった。
男はあれから口もきかないで、部屋を選んで入室のための手筈をとる。男の目は、これから彼自身の寝床になる場所の内装など審査しない。値が張って、厭らしいかが、判断基準だ。
長いようで短かった回廊を、どのように歩いたかは思い出せない。のはなは男と部屋の前にいた。ここで耐えきれなくなって、一人、踵を返して走ったところで、エントランスまで辿り着けまい。
部屋に入るや、男はのはなからスプリングコートを剥ぎ取った。乱暴に、ぞんざいに。
「お前はどんな格好になるか、分かるな?」
男の内鍵をかける様が、のはなの目に、さしあたり看守が重罪人を捕らえた独房の錠を下ろした絵に映った。
のはなはソファへ歩を進める。
怪しげな金具が四箇所とりつけられたそれは、重く冷たげな鎖が伸びていた。
そこに脱いだソックスを置いて、ストッキングを畳んで重ねる。
焦れったい。男の眼光が無言でのはなを追い立てた。
のはなはカットソー、スカート、ドロワーズ、と脱衣していく。下着を除くのにも羞恥はない。既に鼠径部や太ももには男の知る縄跡があって、鎖骨には火傷の名残が散らばっている。一週間の内に二度も三度もこうした折檻を受けるのであれば、男がのはなに関して唯一肯定的な肉体を、早く曝した方がましだ。
全裸になって、のはなは男に跪いた。正座して、指を揃える。
「今日も一日、お仕事お疲れ様です。……西原様」
「ん」
男のつま先がのはなの顎を持ち上げる。顔を上げたのはなの頭の天辺から膝、恥丘まで、男は舐め回すように視線を這わせる。そうして男は唇を歪めると、乳房に足裏を押しつける。
「良い身体だ。衰えてはいけないよ。西原の妻にもなる女は、男の寄生虫なんだからね。脳が使えないなら、身体で貢献するんだよ」
「……存じております」
「靴下が邪魔だ」
「申し訳ありません」