この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
自由という欠落
第3章 選べない貴女
* * * * * * *
LINEの通知が入っていた。送り主は、懇ろな歳上の女だ。死んでみたいという内容だった。
母親の夕餉に付き合って、彼女が配偶者を罵倒するのにさんざっぱら食傷したあと、まひるは部屋を抜け出した。
まひるの暮らすマンションは、陽子のような若い働き手や孤立した高齢者が入居していて、こうした時間に女子が一人で出歩くには感心されない類の立地にある。
さりとて生命の危機を示唆する友人を捨て置けない。まして実際には肉体より、精神を毀すことに甘んじる気位の友人を。
必要とされたい、甘やかされたい、と、陽子は泣いた。
無邪気な少女を気取る陽子は、先週別れたきりの彼女と変わらなかった。それでいて痛切なささめきは、健全な精神の親許で、まだ広大な宇宙の中心にいるつもりでいる生後まもない幼児の啼泣に優って、まひるの良心を刺戟した。
「社会人が定着すると、人間は、職場というものが全宇宙になるのかもね。子供にとって、保護者の気性が人格形成に繋がるのとおんなじで」
「だとしたら私は子供時代、親と職場を行き来していたから、支離滅裂なんだろうな」
「ふふ、まひるちゃんよりもっと小さい子を言ってるの。それに貴女は必要とされてる」
「でも、死んだあとのことを想像したことはあります」
寝台に腰かけて、まひると肩を並べた陽子から、相槌はない。
ビジネスホテルの一室、窓に映った車道のライトの色彩を吸った蛍光灯が、二人を蜜色に包んでいた。
淫らな休憩施設を選ばなかったのは、けだしまひると陽子の暗黙の意地だ。会う約束を交わす度、肉体は先走って疼くくせに、女特有のこまやかな理知を意識して、コミュニケーションに努めたくなることがある。