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自由という欠落
第3章 選べない貴女
「一緒に暮らさない?うちへ来ない、まひるちゃん」
「私の心配はしないで下さい。今のは想像ですから」
「ううん、私のため。まひるちゃんなら佳乃も喜ぶ。一人暮らしって、これでも淋しいんだ。行ってらっしゃいを言ってくれる相手もいない。毎回ホテルにも行かなくて済むし、まひるちゃんは行きたい女の子のところへ、行きたい時に行ってくれて良い」
当然だ。
陽子とて恋人の目を盗んで、小娘の下で喘いでいる。まひるだけ貞節を求められる謂れはない。
問題は、行動の自由の有無ではない。
まひるには、陽子を差し置いてでも目を離せない女がいる。今夜も家に残してきた母親は、昔、明るかった。今でも過不及なく明るいが、家計をほぼ一人で支えて父親の作った負債まで肩代わりしている母親は、まひるを手放さないだろう。何よりまひるは、そうした母親を、一人の女を感情の抜け殻に零落させた男の血を引いている。血の繋がらない女と共に暮らすなど、その女の人生に何かしらの不幸を塗布しかねない。
「私だったら、即、親を見捨てる」
「酷いです、山本さん」
「そうよ。まひるちゃんは甘い。私からすれば、考えられないくらいにね」
陽子の長い指がまひるの指に絡みついて、下ろした髪をもてあそぶ。
いつのことか、陽子はまひるに笑っていた。自分の髪より長いから、指に満足感があるのだと。
「中学生まで、人並みに世話になりました。今だってお母さんのお陰で、私は暖かい家に住めて、好きな洋服も買える。一緒に住んで助け合うのは当たり前だし、お母さんは私がいなくなったら、お父さんの愚痴をぶつけられる人もなくて、困っちゃいます」
「離婚は?」
「昔の家の人だから、親戚に合わせる顔がなくなるそうです。資金もないし」
「不幸なくせに、小心で、行動力に欠けているわね」
「もっと不遇な人達に怒られますよ、山本さん」