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自由という欠落
第1章 がらんどうな方程式







 清らかな少女だ。年相応の子供らの群れに誤って彷徨ってきた、天上の花園でぬくぬくと育まれてきた天使。

 それはさすがに誇張の過ぎた喩えだが、Yが暮橋にいだいていた印象は、それだけ特異なものだった。

 身なりも素行も校則を外れる点はまるでなく、いつでも朗らかに微笑んでいる。教員が話しかければやんわり応じて、成績は可もなく不可もなく、属する仲良しグループはありふれた種類の団体だ。下級生の面倒見も良いと聞く。
 滋養強壮剤にしても、Yが暮橋の気に入りという所以ではない。彼女は単純に、疲労を露わにしていた教師を目に留めて、自身の保険を譲ったまでだ。


 こうした生徒ばかりではない、こうした生徒の方が珍しいから、教員らも下手に勉学に長けた子供以上に、暮橋を無意識に引き立てる。





 Yが初めてのクラスを持って半年が過ぎた。


 いつとはなしに目で追っては密かに癒しの供給にしていた少女達の輪に、目当ての姿を見かけることが減ったのは、新たな季節が息差していたこの時期だ。


 暮橋がどこへ抜け出しているか。

 休み時間まで決まったグループに所属していなければいけない規則はない。学校側にしてみれば、生徒の一人が所定の場所にいないところで何ら問題もないのだから、抜け出しているというのは語弊があるが、Yは目新しい光景に求めていた姿を認めた途端、溜飲が下がった。
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