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自由という欠落
第4章 彩りのうたかた
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朝、目覚めると泣いていた。
夢の内容などとるに足りない。
まひるを不快にさせるのは、頰に伝った涙のしとりだ。不可抗力に零れ落ちた夾雑物が、髪の隙間を縫って、枕まで濡らすに至った現象。
まだ梅雨は先だ。ゴールデンウィークすら始まったばかりなのに、じめじめする。
スマートフォンのアラームを止めると、時刻は五時半を示していた。通常より一時間早い。
朝の挨拶より先に子供じみた悶着を起こす両親は、けだしまだ夢裡にいる。彼らの雑音に耳を叩かれる億劫にも悩まされないで、まひるは顔を洗って身支度を始めた。
心陽がまひる達を二泊三日の宿泊旅行に誘ったのは、ゴールデンウィークに入ってすぐのことだ。最近、三人で始めたグループラインに新幹線の乗車券の写真を添えて、例の用件が送られてきた。
まひるが三日間、家を空けることを両親に告げた時、例のごとく父親は、実の娘に金銭をせがんだ。就労と挫折を繰り返す男の目に、このところ娘の金離れは良く見えるらしい。アルバイトを休んでいるばかりではなく、ただでさえ入学資金の嵩む私学に通い始めたのだから、当然だ。もっとも、まひるは深窓の令嬢の目付役という業務を任されているに過ぎない。生活のための金は提供しても、就職の面接帰りの褒美だの、バスの使用が体力の消耗を促すからとタクシー代だの、彼曰く就職資金は持ち合わせない。
朝ぼらけの夢裡の景色をぼんやり思い返しながら、洋服を選んで、髪や化粧を整えた。
丸襟の付いたピンクのドット柄カットソーに赤いリボンを前身頃に結ぶデザインのパーカーを重ねて、ボトムは白いショートパンツを合わせた。裾に覗くピンクの綿レースが甘くなりすぎないよう、ニーハイソックスはイエローと淡い淡いミントのボーダー柄。今朝、夢でまみえた少女も、ピンクが似合うと言って微笑んでいた。まひるに向かって。