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自由という欠落
第4章 彩りのうたかた


 何故、生きているのか。
 笑えているのか。


 まひるには消極的な根拠だけが残る。


 死ぬ理由がないから生きている。
 何を憎む理由もないから、笑える。



 丹羽の店で働くようになった頃、まひるを動かしていたものは諦念だった。

 変わらないものなどないというのに、あのまま生涯、自宅と職場を往復して、心が華やぐ人間関係も築くことなく、平坦に人生を終えるものだと思い込んでいた。変わらないものなどないというのに。






 丹羽の雇用下にいる現状こそ変わらなくても、のはなに逢って、心陽に逢って、仕事や色事の他にも意識を向けるところが出来た。まひるはおそらく同じ年頃の少女らが朗らかに喜怒哀楽を味わえる環境下に戻ってしまった。世間の考える幸福にも、世間の考える不幸にもなれる。


 現状が好ましいものか否か、やはり世間の基準に従わねばおぞましい結論に至ってしまう思考を錯綜させる内に、果たして待ち合わせの時間は迫った。


 駅に着くと、先に待っていたのは今回の発案者である心陽だ。彼女の姉と知人が現地で待っているというから、発案者というのも語弊があるか。

 サクランボや青い小花、白く大きなリボンの付いた麦わら帽子に、アイスブルーのストライプのワンピース。茶色い巻き毛は三つ編みにして、うさ耳の付いたキャリートランクを引いた心陽は、のはなが絶賛すること間違いない旅装束だ。

 そうしたことを考えていると、丹羽家専属の見知った運転手が、当ののはなを連れてきた。白い手袋を嵌めた男が慇懃に助手席を開けると、ふわふわと出てきたのは、白とピンクで身を飾ったのはな。


「おはよう。ごめんなさい、遅くなって……」

「ピッタリだよ。心陽と私が早かっただけ」

「おはよ。はなちゃん今日もかーわーいーいぃぃぃ……」



 のはなが運転手に労いの言葉をかけると、一同は指定された新幹線の到着するホームへ向かった。
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