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自由という欠落
第4章 彩りのうたかた
「陽子がどんな職場に行っても、私は追っていくだけだから」
「…………」
学校という箱庭より、広漠たるはずの社会の方が、陽子に優しい。
佳乃は陽子を受け入れる。
陽子がかつてのっぴきならない縁を持った生徒も。陽子を心底恨んでいても得心がいくのに、陽子を心底、自身の傷を癒す道具にでもしている風だ。
* * * * * * *
宿泊先のペンションに荷物を置いて、いよいよ心陽の姉とその恋人とカフェで落ち合う時になって、まひるは今朝起きてから今しがたまでの時間を無に帰したくなった。
「…………?!」
「えっっ」
「え…………」
ブランチ時のテラスのテーブル、穏やかな黄金がたなびくアイスブルーの空の下、優雅にミネラルウォーターで乾杯していた恋人達は、まひるの見知った顔だった。
山本陽子と、岸田──…岸田の方は、心陽の話から思い出す。岸田佳乃。
まひると陽子、岸田は、顔を合わせるや数秒、言葉を失っていた。
沈黙を破ったのは岸田だ。動揺にも近い驚嘆を顔に張りつけながら、四年前と変わらない、年長の笑顔をまひるに向ける。久し振り、清水さん。元気だった?
「ごめん、まひる!知らなくて」
心陽の大仰な詫びようは、さしずめツアーガイドが旅行客らを誤った土地へ案内したごとくだ。とにかく遅めの朝食とも早めの昼食ともつかないメニューを頼むことになって、三人と二人とで別個のテーブルに着いて以来、まひるに謝り倒している。
「気にしてないよ。ビックリしただけだし」
「本当?元先生と旅行とか、あり得なくない?」
「心陽はそうなの?」
「やりづらいじゃん。睨まれた過去を思い出したりして」
「…………どんな学校生活送ってたの」
ちなみにテーブルを分けたのは、椅子の数の都合上だ。
先月もみだりがましい遊戯をしたばかりの相手が旅先にいたのは、確かに想定外だった。陽子と交際していることは知っていたにせよ、かつての美術教師まで居合わせるとは。
それだけだ。