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自由という欠落
第4章 彩りのうたかた
とりどりのメニューをカメラアプリに収めると、まひるはフォークや箸を配った。通路を挟んだテーブル席で、陽子と佳乃が互いのドリンクを味見していた。メニューは三品、小皿に分けて、フォークを往来させている。
道中、チョコレートやサブレばかりつまんでいた舌に、ハーブチキンの香味がしみる。パスタに絡みつくオリーブの効いた爽やかな味わいを楽しみながら、まひるは心陽とのはなの話に耳を傾ける。
「こういうの、初めて……。友達同士で旅行なんて、楽しいわ。はるちゃん有り難う」
「こっちこそ急だったのに、来てくれてありがと。初めてなんだ?」
「うちは、お父さんもお母さんも心配症で……」
「許してもらえて良かった。ってか、はなちゃんが海老食べてる……ご飯食べてる……可愛い……」
「あんまり、見ないで……」
ブランチも終わりかける頃、岸田が席を離れてまひる達に歩みを進めた。
「改めて、初めまして。のはなちゃんよね?心陽ちゃんの姉とお付き合いしている、岸田佳乃です」
「はい、この度は、有り難うございます」
「ううん、ゴールデンウィーク、今年は大勢で騒ぎたかったから」
「佳乃さん一人で十分騒がしいよ」
「むぅぅ、心陽ちゃんの塩」
「あの、……はるちゃんとも仲良しなんですね」
「ええーっ。のはなちゃんには負けるよー。さっきから見てて雰囲気良す──「佳乃さん少し黙って!」
心陽は、岸田の口を押さえかねない剣幕だ。岸田はやたらのはなに絡みたがっている。まひるはここ数年内の岸田を知らない、もとより昔も美術の授業で関わる他になかった所以、彼女のプライベートをほとんど知らないが、女の勘とやらが心陽に加勢したがっているのか。
つと、まひるは陽子と目が合った。デザートのシャーベットを頬張る陽子は、こうして離れた距離から見ると、隙のない教師の顔のままだった。
山本、先生。
先生と呼ばなくなった今でも、彼女は教師だ。