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自由という欠落
第4章 彩りのうたかた
「綺麗……。さっきの、あんなに小さいものでも作るの難しそうだったのに、このお城を作った人、どんな技術やセンスを持っていらっしゃるのかしら」
「本当、すごいね。雪の中っていうか、虹の中にいるみたい」
「しかも食器やアクセサリーと違って、こういうのは展示限定だし。しっかり目に焼きつけておかないと、損そん」
「ふふっ、はるちゃんおもしろーい」
「元を取るって大事だよ。ね?まひる」
「そうだよー庶民の私達には」
まひると心陽が笑い合うと、のはなが唇を尖らせた。私だってこんなものは滅多に観られないんだから、そう言って白とピンク色の姫君は、眉根を寄せてショーケースに穴が空くほど集中する。
ガラスの城は、外国のそれをそのまま運び込んできて縮小しただけのように、庭園からポーチの奥に見える広間に至るまで、精密で、リアリティに富んでいる。それでいて角度によって色彩の変わる工芸品は、人間が住むにはあまりに儚い。
まひるがのはなをちらと見ると、心陽と目が合いかけた。まひるがいて、のはながいて、彼女を挟んで心陽がいる。二人の間でうっとりとガラス細工を見つめるのはなは、今朝からの旅路に一緒にいたことが夢だったのではと疑るくらい、この空間に馴染んでいた。それはさしずめ、清冽なガラスを抜け出てきた虹色の炫耀が、少女として具現化してきた姿。
最後の展示室を出ると、物販コーナーに、部屋で見た食器やアクセサリーも並んでいた。
心陽が、オレンジの本体にカラフルなフルーツの装飾が巡らせてあるペン立てを購入した。今回の旅の礼に、岸田にプレゼントするらしい。住む部屋の内装はこだわるくせに、職員室のデスクは常に筆記用具が散乱している彼女を、陽子が嘆いていたらしい。
「まひるとはなちゃんは、何か買わないの?アクセサリーあんなに絶賛していたのに」
「ガラスは、壊しそうだから……」
「同じく。可愛いけど、つけてると割れそう」
「小さいんだし、落としてもそんなに衝撃ないのに」
そう言って、心陽は二度目のレジへ向かった。装身具に目のない彼女は、最後まで、クリスタルガラスの天使の指輪か、気泡の入った貝のモチーフのペンダント、一方に絞れなかったようだ。