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自由という欠落
第4章 彩りのうたかた



「さて、戻ろっか」


 陽子はスマートフォンをポシェットに仕舞うと、ペンションの軒先へ足を向けた。


「山本さん?」

「佳乃に頼まれてしたことだったの。レンタカーが二人乗りであることを忘れるほど、私達もうっかり屋じゃない。ウチの心陽とのはなちゃん、良い雰囲気にしてあげたいんだって。大きなお世話よね」

「…………え」

「まひるちゃんと私が良い雰囲気になっちゃったら、どうするのよ。ねぇ?」


 化粧を落とした陽子の顔は、しかつめらしい。それでいて珠のような肌をむき出しにした女が、こよなく無邪気に口許を弛めた様は、ようやっと緊張を解いた彼女の素顔だ。少女らしい。


 まひるは陽子の後を追う。恋人の妹の恋路を支援することを優先した佳乃の代わりに、陽子はまひるを部屋に招いた。

* * * * * * *

 佳乃がブレーキを踏んだ先に、そのカラオケ店はあった。所どころ年季を感じられる平屋で、どことなくレトロな店構え。

 こぢんまりした間口を通ると、佳乃が慣れた様子で手続きを進めた。伝票の部屋番号に従って扉を開けると、個室は存外に綺麗だった。のはながテレビで見ていた感じと変わらない。


 陽子から連絡が入ったのは、佳乃が二人目を迎えに行くところだった頃合いだ。月のものが降りてきた。腹は痛くても一人で部屋にいるのも退屈だから、まひるが話し相手をしてくれることになった。LINEには、概ねそうした内容が打ち込んであったらしかった。


 佳乃と心陽が既に引き返す気分ではなくなっていたこともあって、のはな達はこの顔触れでカラオケを楽しむことになった。

 美術教師をしているという彼女と心陽は、陽子を抜いたところでも気のおけない仲のようだ。実際、心陽は佳乃に諧謔も弄するし、佳乃も心陽に関してのはな以上に情報を得ている感じがある。部屋に入って三十分も経つ時分には、のはなも二人の打ち解けた雰囲気にとけやわらいで、歌や談笑に興じていた。
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