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自由という欠落
第4章 彩りのうたかた
「はなちゃん上手い!噂通りだわ……習っていたのって、声楽だったっけ」
「ええ、中学の頃、夏休みの帰省中に少し。それだけよ」
「それだけで、こんなにって……才能か。第一、はなちゃんが歌っているのって邦楽だし」
「はるちゃんこそ、上手いわ。歌い慣れてる」
「遊び慣れてるだけだよ」
佳乃の歌声が乗った流行りのバラードをBGMに、のはなは心陽とはかなしごとを交わしていた。肩と肩、太ももと太ももが触れ合うほど間近で見ると、心陽は、化粧を落とすと昼間より近づきやすい雰囲気だ。フリルやリボンを好みながらも、けばい容姿に若干のコンプレックスがあると話していたが、のはなからすれば、心陽のようにあでやかな顔立ちは少なからず得だと思う。
心陽は、いつ練習しているのかと問いたいまでに、彼女こそどの楽曲も歌いこんでいた。常から活発な調子の心陽は、歌っても舌の滑りがなめらかだ。マイクの効果を差し引いても、心地好い程度に声量もある。
もっとも、のはなの笑顔を絶やさないのは、心陽の歌唱力でも、佳乃の選曲の幅広さでもない。単純に楽しい。
「そう言えば、心陽ちゃんって昔からそんな性格だったの?」
「そんなって?」
佳乃は、ほんのり上気した頰の赤みを強めんばかりに、グラスを傾けていた。入っているのは炭酸ジュース。さすがに飲酒運転は自制しているらしいが、これで酩酊を促せるとすれば、ジュースも禁じられるべきではないか。
「いやぁ、系統の似た子をそこまで褒めるって珍しいなって。私、教師じゃない?女の子って、結構競争心高いのよ。ウチの学校の生徒だって、新作のお化粧品をこっそり持ってきては、口先では貴女の方が似合う似合うって笑い合っていても、内心は何考えてるか分かんないし。むしろ私から見て分かるから、怖いくらい」