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自由という欠落
第4章 彩りのうたかた
* * * * * * *
観光地として隠れ無い地域なだけあって、夜の静けさとはよそに、道中には販売店やカフェが随所にあった。
庭園施設の付近には、花や蜂蜜のフレーバーが顔であるソフトクリームの専門店。隣接している土産物屋には、動物園が近い所以もあってか、花の精のキャラクターグッズのコーナーに並んで、ウサギやらモルモットやらのぬいぐるみが積まれていた。
クマのダイカットポーチの陳列棚に足を止めると、まひるは、ふと自分のトートバッグを瞥見した。とびきりロリィタスタイルにめかしこんだ、クマのぬいぐるみのバッグチャーム。昨夜、陽子が部屋へ戻りかけたまひるを呼び止めて、持たせた袋に入っていた。
昔の教師の宿泊部屋で、泣いてしまった。出かける朝、あんな夢を見たせいだ。
陽子に涙を見せたことなど初めてだった。
とは言えクマのデザインからして、面倒な少女を宥めるために、陽子も何の準備もなくプレゼントを思いついたわけではあるまい。
「お姉ちゃん、まひるのこと気に入ってるよね」
ラベンダーから採れた蜂蜜を口に含みながら、心陽がまひるのバッグチャームに目を遣った。
「妹にはお土産なしだったのに。お姉ちゃん達も、昨日ぬいぐるみミュージアム行ってたんだなぁ、今日こそどこかで会ったりして」
「陽子さん、さすがよね。私達なんて、あんなにたくさんの子達の中から選べなかったのに」
「のはなは今も悩んでいたもんね、アイス。ってか、それなら心陽だって、お礼とは言え佳乃さんの方が仲良しってことになるでしょ」
「まぁ気が合うのは佳乃さんかなー。陽キャだし」
「そんなこと言っちゃって。山本さんだって、明るいよ」
「えっ、まひるにも?」
心陽が目を瞠った。信じ難いニュースでも目の当たりにしたような顔だ。
失言だったろうか。まひるの知る陽子は目立たない教師だった。よく言えば目立たない、悪く言えば、目立ってしまったが故に努めて存在を消そうとしていた。
心陽の意識は、何事もなかった風に姉から離れた。ソフトクリームを完食した彼女は、のはなが湿ったコーンの残りにおそるおそる噛りつく様子を観賞したり、今まさに三人で肩を並べている噴水の前で写真を撮ろうと提案したり、おおらかな時を過ごしていた。