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自由という欠落
第4章 彩りのうたかた
「それで、用件は?」
「特に何も」
佳乃の声音は、あっけらかんとしていた。
「強いて言えば、恋バナがしたかったのかな。心陽ちゃんのお姉さんよりは、私との方が盛り上がるでしょ」
その通りである。
伊達に恋仲ではない。佳乃は、なかなか陽子という人物を理解している。事実、卯月の終わる頃、心陽は姉のマンションにまで押しかけたのに、色めいた会話は何一つ出来なかったのだ。
おまけに佳乃は聞き上手である上に、話し上手だ。
まず彼女は、この旅行中の陽子との終始を心陽に聞かせた。その流暢な話し振りは、小説でも読み聞かせている具合だ。初日のぬいぐるみミュージアムに始まって、絵画を好む佳乃を気遣ってかの陽子の提案で、二人が当地出身の画家の作品が展示してある美術館へ足を運んだこと、足湯エステに、名物の滝。…………
「さすがに今日は、コース違ったね。神社で良い授業が出来るように祈願して、それからビール工場。ハーブ園。ハーブ園は地元の方が大きかったけど、お土産屋さんが素敵だったな。枕用のポプリ、お揃いで買っちゃった」
「ふぅん、香りは?」
「ラベンダー。よく眠れるんだって。それに、離れている夜でも同じ香りを感じられるんだって思うと、どきどきしない?」
「…………」
想像を試みる。想像するに及ばなかった。
心陽は、のはなと同じ洋服メーカーの常連だ。ついこの間までは当然に袖を通していた洋服でも、あののはなも同様に慣れ親しんでいるのだと意識するだけで、特別になる。いっそのこと、彼女の存在感に抱かれている錯覚さえ起こす。