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自由という欠落
第5章 始まりの同義語は多分
暗澹とした芝居のあとでも、意外と糸は引かないものだ。講堂は立ちどころに空気が入れ替わりでもしたように、なごやかな雰囲気が戻る。
改善の余地がある箇所を確認して、挙手で意見を出し合って、ここからは更に次のシーンに移るか、数人ごとに分かれて冒頭からここまでの場面を小分けにして噛み砕くかだ。
ひとまず休憩が挟まれることになったところで、出入り口扉に見覚えのない学生の姿があった。
「お姉ちゃん!」
「お疲れ様、皆。ゆき」
颯爽と足を進めてきた学生は、確かめるまでもなかった。ゆきが姉と呼ばなくても、その上級生は彼女に何かしらの所縁が予想出来るほど、どことなく似通うものを備えていたのだ。
明るい感じの顔立ちに、肩に触れるか触れないかほどの茶髪。身長はゆきより十センチ程度高く、シンプルなシャツとタイトなサブリナパンツをとり合わせている。侠気な身のこなしも補翼して、とりわけしよりの方が共通したところがあるか。ただ、一つ一つの顔のパーツは、やはりドールめいた部長の持つ面影に重なる。
「久し振りです、真知(まち)先輩」
「あぁぁっ、相変わらずお綺麗ですね!」
「久し振り、有り難う。急に来てごめんね?稽古順調だってゆきから聞いていて、一回生の二人にも会いたかったから」
「初めまして。丹羽のはなです」
「清水まひるです。宜しくお願いします」
真知と呼ばれたゆきの姉の視線を受けるや、まひるとのはなは雪崩れる勢いで会釈した。そんなに畏まらないで、と、真知から砕けた笑顔が返る。
二回生の、特に女子らは、恋でもしている目つきを真知に向けていた。普段はしよりに歯の浮くような美辞麗句を送っている彼女らは、ゆきに負けず劣らず、中性的な女に弱いのか。