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自由という欠落
第5章 始まりの同義語は多分
部員らが菓子をつまみながら休憩時間を過ごす中、ゆき達も昔話に盛り上がっていた。
「こうして話していると、懐かしいな。真知先輩とは二年間一緒に芝居したけど、先輩とゆき、芳樹は、中学からずっとやっていましたもんね」
「そうそう、だからしよりちゃんまで入部届を出してくれた時は、ドッキリかと思った。どうしてだったの?」
「どうしてだと思いますか」
「えー、そこ秘密?」
「でも、しよりとはずっと一緒にやってる感覚。中高の頃だって、たまに私達が部活終わるまで、近くで待っていてくれたもんね。帰宅部だったのに、よく一緒に帰ったね」
「それ考えると、俺ら長い付き合いだよな」
どうりで家族のように打ち解けたところがあったはずだ。
ピーチ味のグミを舌に転がしながら、まひるは、ひとりでに耳に触れてくる上級生らの歓談に得心していた。のはなが同じグミを口に放って、刹那、酸味が障ったのか頰を歪めたあと、忽ち砂糖の効いた部分が広がったのだろう、口許を緩めた。
ゆきとしよりは、絵に描いたような親友の仲だ。彼女達に加えて、芳樹らも同じ中学校にいたらしい。変わることなく、そうした観念さえ持ち合わせないで、八年九年、共に過ごしてきたのだろう。この先も、多分また。
オセローとデズデモーナのように、婚姻関係を結んだつがいですら、その連結はうたかたのごとく破綻したのに。
いかなる風に約束を交わして、何を引き換えに捧げていれば、繋いだ手を離さないでいられるのか。或いは生を受ける前、どんな稀少な籤を引き当てていれば、欠けるべきでないものが欠けないままでいたのだろう。