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自由という欠落
第5章 始まりの同義語は多分

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 日も沈みきらない内から、大の女と男が罵声を投げ合っていた。

 発端は、母親が持ち帰った土産の菓子を、父親の方がぞんざいに嚥下した態度からの衝突だ。血縁関係を持つ人間同士でさえ価値観や道徳の齟齬はあるのに、当然、赤の他人同士で一時の気の迷いから妻夫という枠に投身した交わしたまひるの生みの親達は、相手の言動、癖、行動に、著しく敏感だ。
 今日も、男は女の同僚が職場で配っていたという土産を我が物顔で頬張るや、食感が期待に当てはまらなかったというだけで、味わいもしないでものの二口で飲み込んだ。それだけで、今度は女が逆上して、彼女は彼女の良人に当たり散らした。あとは無言になるまでの鬩ぎ合いだ。女は男の洗濯物が多いだの、つい最近また仕事を辞めたくせに、借用書の金額は増えているだの、蓄積した不満を並べて、男の癇癖を焚きつける。

 珍しくもない悶着だ。

 まひるにとって、両親がなごやかに笑っている方が稀少だ。

 彼らが娘まで巻き込むのではないにせよ、まひるも思春期と呼ばれた時分は、悪意を投げ合う彼らの声は、耳障りな雑音だった。扉越しに聞こえる否定、悲観、独善は、鈍い無数の針になって、まひるの細胞を黒く蝕む。父親が風呂へ向かったあと、或いは彼の出かけた翌朝、母親はまひるに配偶者の不満をぶつけた。まひるは彼女の暗い音色に食傷していた。

 実際は、思春期を過ぎた今も、耳を塞ぎたくなっているのか。珍しくもない夾雑音に。


 口汚ない相互の悪意、それから彼らが「恵まれた」人間と認める人種を指しての罵倒。特に母親は、父親の借りてきた金を代わって返済に努めた末に、裕福層に憧憬と嫉妬を持ち合わせるようになった。彼女には、まひるという一人娘や彼女の母親は愛しても、配偶者を始め、彼女の務める会社の重役、政治家、目に留まった地位も財産も持ち合わせた人物達を憎むことで、快適に世間をやり過ごすようなきらいがある。


 まひるが陽子と再会した出会い系アプリを始めたのは、そうした光のない家を抜け出して、柔らかなものに包まれることを求めた所以だったのかも知れない。或いは、男のいない世界を求めた。施錠した薄ら暗い密室で、女と二人、触れ合ってキスして潤みを使って結合している瞬間は、この世に女という性しか存在しない錯覚に陥れる。…………
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