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自由という欠落
第5章 始まりの同義語は多分
「恋人でも出来たんじゃないかって、思ってた。まひるちゃん寂しがり屋だし」
とりとめない会話の相手の女は、ホテルの個室に入った頃、やはり他愛ない語調でまひるに笑った。
確かに、まひるが彼女と最後に顔を合わせていたのは、五ヶ月ほど前だった。
二月の底冷えが執念強く残っていた。あの日からしてみれば考え難い、今はブラウス一枚で出かけられる。
昨日のロリィタファッションとは一変して、少年めいたパンクスタイルが完成した時、まひるはにわかにぞっとした。女の好みにほどなく近いと気付いたからだ。
デートの相手の好感を煽る装いだの、第三者のニーズに応えた格好だの、そういったものに則った分、自身の否定に繋がるのではないか。少なくともまひるはそう考えている。
TPOさえたがわなければ、人間は、化粧や服装において、偏見やオールマイティに翻弄されるべきではない。たかが化粧、たかが服装と一笑に付して、まるで量産型の身なりに準じてこそ精神の衛生が保てるという人間はいる。恋愛をした途端、或いは本人が許容とする年齢に達した途端、相手の嗜好に合わせて、また、ステイタスに合わせて、クローゼットの中身を入れ替えるような女も。まひるにそうした彼らを笑う権利は持ち合わせないし、そうした彼らにまひるのような人間を攻撃する権利もない。
ただ、偶然選んだ洋服が、今日の女の好みに当てはまっていた。そこに僅かなしこりが生じたというだけだ。