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自由という欠落
第5章 始まりの同義語は多分



「残念、ハズレ。元先生とよく会ってるくらいで、相変わらず極度の恋愛恐怖症だから」

「ふぅん。残念。もったいない。そんな風には見えないのに」

「玖美(くみ)さんだって、全国に恋人がいるような遊び人には見えない。怒られないの?」

「正直に話してるもん。一番愛してくれなくて良い、一番可愛いって言ってくれさえすれば。私は好きに恋愛するから、貴女も添い遂げる相手は自由に選んで。そういう条件を出すとね、意外と許してもらえるんだー」


 遊園地でアトラクションに目移りする少女よろしく、自身の恋愛スタイルを吐露する女──…玖美は、地元に二人、他県に五人、恋仲の女を持っている。
 恋愛に興味をいだくようになった時分から、いわゆる中性的で格好良いタイプの女が好きだと自覚した玖美は、おまけに趣味がデートと自称出来るほどには遊び歩くことが生き甲斐で、休みのほとんどは家にいない。
 まひるが玖美に出逢ったのも、フリーの女をユーザー層に狙ったはずの出逢い系アプリだった。アパレルショップの店員で、趣味は読書と映画、普段着はロリィタ。玖美の自己紹介文だけで、共通の話題が期待出来たのもあって、LINEを交換するまでに時間はかからなかった。それがいざ会ってみると、彼女は何の悪びれもなく自身の恋愛談を始めた。まひるが恋人を求めていないことを表明していた所以もあった。ただ、当時は喫驚したのを覚えている。



 のはなの私室をチープにした感じの、中世の城の中を聯想する室内は、玖美が目を輝かせてアイフォンのカメラアプリでシャッターを切るだけある眺めだ。
 白いレースの重ねてあるピンク色のバルーンカーテンに、ピンク色のカーテンの降りた天蓋ベッド。猫脚のキャビネットやチェストを始め、メルヘンな絵画やらレプリカの鳥の入った籠やらが装飾の目的だけで配置してあって、明るすぎないランプから降りた飴色の照明が、より雰囲気を醸している。何より、たっぷり膨らんだパフスリーブの生成りのブラウスに金の額縁と白鳥、湖のイラストが入った若草色のジャンパースカートというクラシカルロリィタに身を包んだ玖美の姿は、異国の城に訪問した観光客が、根拠もない郷愁に駆られている風に見える。毛先の巻いた黒く長いツインテールが、おりふし、彼女の腰を撫でる。
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