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自由という欠落
第5章 始まりの同義語は多分
「玖美さんって、明るいよね。前向きになれる秘訣って、あるの?」
「まひるちゃんだって明るい方だよ。カッコイイし、可愛いし」
「…………そんなこと」
「でも、そうだなぁ」
アイフォンを置いて、玖美がまひるに歩を進めた。お袖留めを飾った奢侈な両手がまひるの片手を取り上げて、指にじゃれつく。
「年の功、かな」
「年……?」
「二十五年も生きていると、ある程度のことは小さく思えるの。たくさん成功して、たくさん失敗して、それでも終わりだっていうことはなかった。怖いものがなくなっていく」
「そういうものかな」
「うん、まひるちゃんも、だから二十五になるまで待ってみよう。それまでは、たまには私に頼って」
あと七年も待てる気がしない。あと七年、生きているかの保証もないのに、玖美の言葉はいやに説得力があった。
七年という年月は、長い。おそらく長い期間を経れば、確かにまひるも変わっているかも知れない。愛だの恋だのに期待を寄せて、あらゆる鬼胎を踏み越えて、玖美のように目先の幸福を漠然と受け入れられているかも知れない。これが三年と聞いていれば、やはり絶望していたろう。だが、七年は長い。それだけの期間は何も手に入れなくて大丈夫だ、このままでいて構わないという保険としては十分だ。