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自由という欠落
第5章 始まりの同義語は多分
生臭さを残した部屋に、のはなは身体を投げ出していた。
屋敷の中で最ものはなが安心出来たはずのこの部屋も、西原が侵入した途端、低級な連れ込み宿に変わる。一人の夜は格段に眠れる天蓋ベッドも、西原が自由に振る舞ってしばらくは、のはなを彼の置き土産で脅かす。また一本、縮れた陰毛が淡い苺柄に紛れていた。
今夜も、西原はのはなを珍獣にでも向ける目つきで視姦して、侮辱して、部屋も洋服もさんざっぱら否定した。
西原は、近い将来のはなと式を挙げた暁、おそらく配偶者の持ち物は処分する。ことあるごとに、彼はのはなを所有したあとの理想を語る。それらの中に、のはなに彼の所有物としての姿をとらせることを心待ちにしている節が含まれているからだ。この天蓋ベッドも、結局、のはなは長い人生の中で、四年ほど使えるだけだ。
屋敷は、今夜も坂木が留守を守っている。
無音の闇に蘇るのは、存外にも、とろけるような夢の残影、昨日の放課後の公園だ。
のはなは、心陽と数十分の時を過ごした。
偶然に顔を合わせて、ただ近くの公園に座って少し話していたひとときは、この部屋で西原と激烈に淫らな行為をするよりも、甚だしく有意義で、宝石のように輝いていた。心陽は、のはなのリップグロスのラメが変わっていたところに着目した。そして綺麗な目を細めて感想を述べた。ぞんざいにキスをして、舌を入れて、唇を飾ったものなどすぐに唾液で拭い取ってしまう西原は、のはなが明日髪を切ったとしても目に留めるか分からない。