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自由という欠落
第5章 始まりの同義語は多分
* * * * * * *
陽子の都合がつかない期間、結局、まひるは玖美と二度会った。
彼女らと深夜まで過ごす日は、大抵、両親には丹羽の用事を名目にして出かけている。中学校を出て三年間、雑貨店で働いていた春までは、まひるもあの気さくな雇い主がことあるごとに主催していた食事会やら飲み会やらに出席していた。業務内容が彼の愛娘のお目付役になったところで、まひるがのべつ家を空けても、家庭の平安も満足に保てない大人達にこまやかな詮索を及ぼす術はなかった。
大学の方は夏休みになった。世間一般の中学校も、少なくともまひるの母校は、とうに連休に入っている。教員の仕事に専念していた女からも、昨夜、ようやっとあらゆる業務が落ち着いたという旨がLINEで送られてきた。
「夏休みどうする?花火行こうって話していたの、良いとこあった?」
「◯◯川かなぁ、SNSで毎年映えてて、気になってるんだ。人少ないのは◯◯町。まったり観るならそっちかなぁ」
「河村ぁ、お前どっか行くの?」
「俺はグアム。叔父が出張しててよ、毎年呼んでくれるんだ。っつっても、この歳で家族と旅行ってのもな……、お前は?」
「◯◯フェス!チケット取ったんだ!」
昼の休憩時間になると、稽古から解放された部員らは、示し合わせたように学年ごとに集まっていく。
一回生は、仮入部中のまひるとのはなの他に、今年は三人の学生らが入っていた。
「お疲れ様、そう言えばのはなちゃんは……?」
「あれ、さっきまでいたのに」
「はは、可哀想、清水さん。二人いつも一緒なのに置いて行かれた?」
美乃梨(みのり)と一歩(かずほ)、敏雄(としお)が辺りを見回していた。確かに、今しがたまでここにいたはずの同級生の姿が一人足りない。
今しがた、と言うにも遠い。本当にたった今まで、のはなはまひると舞台上でかけ合っていた。
手洗いへ行ったのかも知れない。或いは、飲み物を買いに行くくらいで、いくらほぼ付きっきりの間柄でも、のはながまひるに断りを入れる義務はない。
だのに、まひるは部室をあとにした。磁気にでも操られるような足取りだった。のはながどこへ向かったか、見当もつかないのに、足がひとりでに校舎を進む。