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貴女に溺れて彷徨う
第3章 不自由への憧憬
* * * * * * *
「稲本さんの手作りお弁当、どんなだったんですかぁ?」
従業員用休憩室から戻るなり、ひなたが肩を寄せてきた。
「こんなの」
あたしはスマホのフォルダを開いて写真を見せる。
そこには、あゆみほどの年頃に、遠足で友達が持たされていたのを思い出すような弁当が映っていた。午前中、みなぎが差し入れてくれたものだ。ウサギ型のおにぎりに、ハート形のスペイン風卵焼き、ハーブ入りの鶏団子に魚の切り身、野菜のマリネ、ポテトサラダ。どれも一から彼女が作ったものらしかった。
「すご……」
「ねー。おにぎりの形からは信じられないほど、味は本格派だったよ。言っちゃ悪いけど、カフェのランチより好き。シェフか!ってLINEしちゃった」
ちなみにそのLINEの返信には、何か粗相があったかしら──…と打ち込んであった。相変わらずノリが悪いのも、みなぎの可愛いところである。
「稲本さん、聞いていた通りというか、想像以上に清楚な人でしたね。箸休めみたーい」
「ひなたってたまに辛口だね。確かに箸休めっぽいけど、デザートとしても最高だよ」
「じゃぁ、ひぃはメインディッシュに昇格ですかぁ?」
「ひなたはタイプじゃないでしょ。あたしみたいに一途じゃない人間」
後輩の諧謔に諧謔で返し、あたしは午後の業務に戻る。
と言っても夏休み明けは本当に客が少ない。大学生はまだ長期期間中で、例の秋の限定コスメが華々しく店頭の顔を務めているのにだ。それらの中からみなぎがネイル二本とルージュを購入していなければ、報告しにくい売上額になっていたんじゃないかと思う。