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貴女に溺れて彷徨う
第3章 不自由への憧憬


「有り難うございましたー」

「皆、有り難う。また来るね」

「また来てー。ってか、ほんと心配なんだけど」

「今日だけだってば。たまには物欲」

「有り難う、またね、優香」

「そうだ、莉世」


 大きな紙袋を携えた優香が、振り返ってきて足をとめた。

 あたしは彼女に距離を詰める。


「稲本さんと、連絡とってる?」

「うん」

「彼女、どう?」

「可愛いよ」

「じゃなくて、元気?」


 優香の口振りは神妙だ。

 さっきも会って、差し入れを届けてくれるくらいには元気だ、と惚気られる雰囲気ではない。


「何かあったの?」

「私もよく分かってなくて。先日クリーニング行った時、もしかしたら休業日が増えるって聞いたから」

「店の?」

「ご主人、アルバイト行くんだって。経営厳しいみたい。仕方ないよね、自営のクリーニング店は大手と違って、工場もないし……コスト相当厳しいと思う。だからって値上げしたら、それこそお客さん離れるんじゃないかな。私は、あんなに丁寧な店は他にないから、どれだけ高騰しても利用させてもらうけど」


 珍しくもない話だ、と思った。

 今のご時世、自営業者でなくても、兼業はどこででも聞く。
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