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貴女に溺れて彷徨う
第3章 不自由への憧憬
* * * * * * *
秋の情緒が深まっていく。
週末の飲食店は二人連れの客が席の多くを占めていた。
あたしは、響と駅前のホテルで待ち合わせした。
路面一階のレストランは、間近な夜景が却って気分を浮き立たせ、内装はこだわりを感じるのに気取りすぎない空間が、下心を匂わせないデートスポットとして客の決め手になっていそうだ。
メニューを選びながら、あたしは屡々、響の月のようなあでやかさに目を奪われていた。ガラス張りの壁を透かす人工的な明かりは、彼女に触れた途端、幻想的な光に変わる。つややかで引き締まった唇がより潤沢を増すのはリップグロスのお陰だとしても、髪や目まで水晶を砕いて散らしたようだ。
「どうしたの?」
「何でも。響さん、綺麗だなって」
「いつもと同じよ」
「百貨店の明るい場所以外で、初めて見たから。それにこういう場所だと、お客さんとして見られない」
「お店でも、友達として見て欲しいな」
「友達として、か。努力します」
「難しいなら、それ以上でも構わなくてよ」
悪戯に笑う物言う花の左手で、みなぎと同じ指に嵌まった銀のリングが白い艶を滑らせた。
前菜が運ばれてくると、あたし達はサラダやスモークの盛り合わせに手をつけながら話をした。
響は、彼女の半生をあたしに聞かせた。そこには左手薬指のリングの事情も含まれていた。