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貴女に溺れて彷徨う
第3章 不自由への憧憬
「良人は、アセクシャル。気持ちの上でも身体の面でも、浮いたことには無関心な人。でも、家が大仰な人で。家庭を持たなけば跡継ぎの資格が歳下の従兄弟に移行しそうになったところで、友達の私が偽装結婚に協力してあげたんだ」
「ドラマみたい。セレブな人の世界って、やっぱり違うね。響さんは、イヤじゃなかったの?」
「ウチも古めかしい実家なの。結婚ハラスメントや面倒なお見合い話を持ちかけられたりするくらいなら、気心知れた人と利害一致の契約をした方が楽だったわ」
欲を言えば格好良い女に尽くす人生を歩みたかったと話す響は、めぼしい出逢いがなかったらしい。なよらかな女に慕われることはあっても、そうした女とは夜の相性が合わない。互いによそ見して破綻した、苦い思い出ばかりだという。
「タチの女性って、私みたいな女はダメなのかしらね」
「あたしはどっちもオーケーだから、響さん普通に魅力的だと思うな。響さんみたいな人に甘えられたら、ネコやめる」
「莉世さんやっぱりビアンなんだ。良かった」
外で会うのは初めてなのに、響とは、会話が全く途切れない。Tenue de bonheurのコスメだけでも話のネタは尽きないし、偽装結婚というとりわけセンシティブな彼女の事情を知ったあたしは、みなぎとのことも、せりな達より話しやすかった。