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貴女に溺れて彷徨う
第4章 変わらず捕まえていられたら

 十月下旬、あゆみが十二歳の誕生日を迎えた。

 その週の日曜日、あたしはみなぎの誘いを受けて、いつもの模擬試験が終わる時間、彼女を塾まで迎えに行った。


「大雅には秘密だから、あまり長くはいられないの。でも、あゆみもこんなに頑張ってるし、一生に一度の十二歳の誕生日、少しくらい息抜きさせないと可哀相でしょ」

「良い心がけだと思う。親に隠し事なんかしたことないはずのみなぎが、娘にまで押しつけないの」

「学生時分は、ほとんど話さなかったくせに。私のこと知ってるって顔するの、上手いよね」

「褒めてくれて嬉しい」

「違うわ、皮肉よ」


 実のところは親友でも何でもなかった、という会話を堂々と交わせているのは、あゆみが試着室に入ったからだ。

 あたしの職場近くにまで足を伸ばして、みなぎがあゆみを連れて行ったのは、市内にあるAngelic Prettyの直営店だ。
 あゆみはあたしの言葉を間に受けたのか、母親に望みを打ち明けたらしい。みなぎも反対する理由はなく、大雅に黙っておくことを前提に、そして袖を通すのは受験を終えてからという約束で、フルコーデとまではいかないにしても、いくつか誕生日プレゼントとすることを決めた。

 目新しい冬服が次々と出る今の時期、店内は、煌びやかなロリィタ姿の女達で賑わっている。一言でロリィタと言っても多様にあって、特にAngelic Prettyは甘く華やかな路線を得意としており、店舗の内装もピンク色が多くを占めて、ぬいぐるみや雑貨のディスプレイが凝っている。こういう店に足を踏み入れるのはいかにも初めてのみなぎまで、少女のように落ち着かない目をあちこちに向けていた。
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