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貴女に溺れて彷徨う
第4章 変わらず捕まえていられたら
「みなぎ。あたしは待つだけのお姫様じゃないから」
手を拭ったみなぎがすぐ斜め後方に足を止めた気配がした。腰を下ろした彼女と目の高さが同じになると、Tenue de bonheurの秋のくすんだピンク色の爪の並んだ片手を取って、指の隙間にあたしのそれを埋めていく。
「みなぎが好き」
「…………」
「あゆみちゃんのために我慢するのも、立派な愛情だと思う。正しいよ。でもあたしは、昔、お母さんがお父さんと別れてくれて良かったと思ってる」
「莉世……」
「解放されたのはあたしも同じだったから。みなぎやあゆみちゃんが大雅さんとどうなのかは知らないけど、我慢だけが正しさじゃないし、この気持ちは本気だよ」
「そんなこと、言われても困る……──っ、……」
みなぎの頬に指を添えて、鼻先が触れ合うほど顔を近づけ、触れかけた唇を耳元に移す。
「キスしても、困る?」
「っ……」
指をほどいて、あたしはバッグを持ち上げる。
味わいたくてたまらない、みなぎのふっくらとした唇に触れなかったのは、意地だ。