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貴女に溺れて彷徨う
第4章 変わらず捕まえていられたら
* * * * * * *
せりなに異動が知らされたのは、その翌週だ。
Tenue de bonheurの一ファンで、日頃からその品々に囲まれていたいという単純な動機で入社したあたしと同期の彼女は、元々キャリアアップも視野に入れていた。それに誰の目から見ても隙のない美人の類に入る彼女は、特にこの頃、この歳になってもこうした若い世代の女達に人気のコスメブランドで美容部員を務めていることに限界を感じていると、本社勤めの親しい社員達にぼやていた。
「本社の川本さん、いきなり来てせりなを呼び出したと思ったら、そういう話だったんだ」
「私もビックリ。あと一ヶ月は一緒だから、莉世も甘利ちゃんも宜しくね」
「淋しくなりますぅ。伊野さん、そんなに本社が良いんですかぁ?ここなら莉世さんも一緒だし、ひぃもいるのに」
「もう私はピンクメイクとか痛いからね。そろそろ若いスタッフに代わった方が、販促にも良いでしょ。莉世みたいに女の子にリップサービスも上手くないし。それに私、もっと勉強していつか開発に関わりたいの。どっちかと言えば、それが本命。販売したくて仕方なかったわけでもないしね」
せりなにそこまでの志がある以上、ひなたやあたしに口を出せるところではない。かつて好みの似ていたあたし達がこうも違ったのは、歳月より、むしろ好みの変化が大きいんじゃないか。人の好意の対象が、変わらず同じであることなど奇跡だ。