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貴女に溺れて彷徨う
第4章 変わらず捕まえていられたら





「じゃあ、いつか稲本さんを諦めて、ひぃに戻ってきてくれますかぁ?」

「何で……そうなるの」

「言ったばかりじゃないですか。同じものを好きでいるのは難しいって」


 二年前のあたしなら、おそらく気分がそうさせているだけのひなたの甘えたぶりを好機と取って、食いついただろう。これだけ思わせぶりな彼女の口振りは、まるで天気の話でもしている風だ。

 住人と同じこざっぱりしたユニセックスな生活空間、ひなたとあたしの前方に見えるキッチンで、睦が洗い物をしていた。彼女のバーの定休日、例のごとくあたし達は集まって、あれこれ無駄話しながら夕餉の席を共にした。

 睦の完璧な料理スキルの産物に舌鼓を打ちながら、会話の中心になったのは、あたしがみなぎに告白した件だ。好意はとっくに伝わっているにしても、改めて交際を申し込んだのは、この前が初めて。

 元々みなぎに関して好意的でなかった睦は、マッチングアプリを再インストールした方がマシだと言い出す始末で、ひなたは複雑な顔を浮かべるだけで、反応は極めて薄かった。ただ、ことあるごとにあたしを全肯定する彼女は、未だいたずらな諧謔で、みなぎを諦めろと勧めてくる。
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