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貴女に溺れて彷徨う
第4章 変わらず捕まえていられたら
二年前、当分ひなたは誰を信じることも出来ないほどに、傷ついていた。
彼女が睦やあたしに身体を許すのは、自慰と天秤にかけた結果で、他に意味はない。彼女は誠実な人間しか愛せない。
だから、きっとあたしがひなたの甘えん坊に乗ったところで、彼女の方が先に熱を冷ますと思う。もとより冷めるだけの熱もない。
「睦、いつもごめんね。こんなしょっちゅう押しかけて、家族みたいなものなんだし、片づけさせてくれないなら掃除でも何でも言いつけてね」
「良いよ。それに莉世と家族とか、五月蝿そう。全部屋、防音装置必至じゃないか」
「睦に言われたくなーい」
「あ、お風呂沸いたよ。ひなたちゃんどうぞ」
「良いんですかぁ?」
「お姫様ファースト」
「はうっ」
肩を寄せて、睦が少しささめいただけで、ひなたの語尾に見えない三本のスラッシュが付く。
赤い七分袖のカットソーに、白地に小花柄のフリルスカート。その裾が揺れて、波打つ長い黒髪も、彼女が腰を上げた弾みに起きた風に靡く。睦からタオルを受け取って浴室へ向かった彼女の後ろ姿は、まさしく野原を舞う蝶だ。
「結局、睦みたいにカッコイイ女が好きなのかな。女って」
あたしの前に、レモングリーン色の液体の入ったグラスが置かれた。睦のと合わせて二杯あり、片方を持ち上げてストローを口に近づけると、前にバーで飲んだハーブティーの香りがした。
「で、莉世に相談があって。良い?」
「ひなたにでも聞かれちゃまずいこと?」
シャワーの音がこぼれてきたタイミングで睦の表情が引き締まったものだから、あたしは軽くからかった。ハズレとばかり思っていたのに、彼女はあたしに短く頷く。