この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
貴女に溺れて彷徨う
第4章 変わらず捕まえていられたら
* * * * * * *
翌日、みなぎがひょっこり現れた。
最初は獣の檻の前でも通りかかる風な顔つきで、周囲の店をおずおず見回しながらようやっとといった具合にTenue de bonheurに辿り着いた彼女も、今やすたすた歩いてくる。
「親戚から新鮮な川魚が送られてきたの。甘煮にしたら、あゆみ達が冷めても美味しかったって言うものだから、莉世にも味見して欲しくて。それとシャインマスカット。甘利さん達も良かったら」
「わぁっ、有り難うございますぅ。皮ごと食べられるやつですよねぇ?ひぃ、好きです」
「有り難うございます。お姉さんが、稲本さんですか?」
「はい」
甘い香りのこぼれる風呂敷包みを抱くひなたの傍らで、山城さんが愛想良く自己紹介した。
彼女らが顔を合わせたのは初めてだ。大抵、みなぎが来る時は、あたしの他にひなたかせりなが店にいた。それでも早番の少ない美容部員まで彼女を知るのは、それだけあたしが常日頃から惚気ているからだろう。