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貴女に溺れて彷徨う
第4章 変わらず捕まえていられたら

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 毎年恒例のクリスマスコフレのサンプル展示が始まって、さっそく来店した響の予約票を仕上げていた時、Tenue de bonheurの代表取締役が久し振りに見回ってきた。

 四十代後半という若さで有名コスメブランドの二代目社長に就いた彼女は、あたしが入社した頃は、他店舗の美容部員だった。それもあってか、モノトーンのすっきりしたスーツに身を固めていても、Tenue de bonheurのコスメの長所を最大限に活かした顔は、いつ見ても洗練された華がある。

 ひと握りのファンを除いて、社長の顔は知られていない。だから響が親しみ深そうに──…それも敬称なしで呼びかけた時、あたしは初めて響の素性を少し垣間見ることになった。


「従姉妹だったの?!」

「ひぃ、初耳ですぅ」


 瞠目したひなたとあたしの真向かいで、社長がにこにこ頷いた。響は隠していたことを詫びながら、身内と明かして特別な目で見られるのを避けたかったのだと弁明する。

 おっとりした言葉つきにゆる巻きの茶髪、洋服も明るい色が多い響と、凜然とした印象の強い社長は、言われなければ結びつかない。けれど今、改めて二人が並んでいるのを見ると、美人姉妹ならぬ美人従姉妹として納得がいく。
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