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貴女に溺れて彷徨う
第4章 変わらず捕まえていられたら
予約票のお客様控えを手渡す拍子に、響の指先があたしに触れた。それが故意だと察したあたしは手を引くタイミングをわざと逃して、彼女の手のひらに甲を預ける。
「あたしも、……もっと早く出逢ってたかった。響さんに」
学校帰りの少女が足を留めたので、ひなたは接客を始めた。模範的なセールストークは非の打ちどころがないのに、彼女の気が散っているのは、横目でも分かる。たまに感じる視線が痛い。
ひなたに好意を寄せた一時期は、嘘ではなかった。それでもあたしはみなぎとの将来を思い描いて、響とも寝た。そして、やはりひなたが可愛いと思う。痛感したのは、せりなに付いてあたしも本社へ移りたいかと、せめてもの償いにと前置きした響が提案してきた時だ。
「中学からずっと一緒だったんでしょ。そういう友達って大事よね。寂しくなるのは分かるから」
「ううん。響さん。せりなは好きだよ。でもあたしはこの店にいた方が響さんにも会いやすいし、正直なとこ、ひなたを一人にしたくないんだ」
どちらかと言えば、後者が本音だ。
すぐに寂しげな顔を押し込めて、空っぽの建前とまでとはいかないあたしの言葉に、響は有り難うと言った。