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貴女に溺れて彷徨う
第4章 変わらず捕まえていられたら
「ちょっと、莉世……」
「まだ一時間経ってないよ。ってか、二時間くらい良いんでしょ」
「でも、んんっ……」
洗剤の香りの残った手を拭くみなぎを腕に捕らえて、彼女にキスを押しつけた。ひなたとは違う、響とも違う。薬用リップのぼんやりした艶を浮かべた唇は、ほろほろと溶けていくのではないかと危ぶむほど優しい。
もしかすれば、あたしはひなたと一緒にいれば、マッチングアプリも必要なかったかも知れない。パートナーと呼び合うことはなくても、彼女はあたしがそうした相手を求めなかった理由になっていたくらいには、日々を満たしてくれていた。みなぎを諦めろという睦の言葉も、あたしが聞き分けの良い人間なら、こうも耳を貸さないこともなかったか。
けれど、みなぎの代わりはいない。
「みなぎ、好きだよ。……好き」
片手を取って指を絡めて、頬にも手にもキスを散らす。
みなぎを知るほど、近づくほど、虚しさも募る。顔も見たことのない男のために、あたしの内側がおどろおどろしい色彩に染まっていくことさえある。理屈では打ち払えない、この悪循環さえ、焦がれてやまない感情の招く快楽になる。
「みなぎ、次いつ休めるの?」
「二週間後……」
「分かった。休んどく」
「良いの?」
「休暇に時間じゃ、脱がせも出来ないもん」
「ァッ……」
腹や尻を撫でながら、あたしはみなぎに身体を押しつけ、びくんとたわむ彼女の頬にまたキスする。
「あの返事の、こと」
店に戻る途中、散歩中の老いた男とすれ違ったあとくらいに、にわかにみなぎが口を開いた。すぐに頭が追いつかず、あたしが数秒の間を開けたからか、彼女はあゆみの誕生日を祝った日のことだと補足した。