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貴女に溺れて彷徨う
第1章 眠り姫は魔法で目覚める
日が傾く頃、優香は提出用の書類を作るからと言って帰路に着いた。
あたしは帰り道とは逆方向の電車に乗って、みなぎの家に押しかけた。優香が確かめもしないであたしのスキルを推すため、彼女も断り難かったのだと思う。
「子供が一端、帰ってきますが、すぐに塾へ行きますから。あ、主人は店にいて、ご挨拶させられずすみません」
「良いよ。別に、お嬢さんを下さいって言いにきたんじゃないし」
「あ、すみません」
「そこ流して?!」
この諧謔に真顔でリアクションした女は、初めてだ。
みなぎは私を部屋に通してお茶を出すと、化粧を落としてくると言って出て行った。
彼女が起臥している部屋は、折り畳まれた布団とローテーブルが面積のほとんどを占める。飾り気なくて、彼女に似ている。
煎茶など久し振りに口にした。
渋い部屋で渋いものを喉に流して、あたしは自分で考えていた以上に自分の高揚を自覚する。
何故か敬語の抜けないみなぎは、彼女の寝室に戻ってくるのにもノックした。あたしが応えると、笑わないで下さいね、と、扉の向こうで彼女が何度も念を押してくる。