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貴女に溺れて彷徨う
第1章 眠り姫は魔法で目覚める
「何で笑うの」
「今、スッピンなんです」
「顔洗ったらスッピンになるに決まってるし」
「本当、不細工なんで、軽蔑されると思います」
「見た目なんかで軽蔑してたら、キリないよ。汚職やゴキブリなんか、軽蔑どころじゃ済まなくなるじゃん」
「……ゴキブリが可哀相です。あいつらに悪意はありません」
ゴキブリを弁護するために扉を開けた元同級生は、特に見苦しいところはなかった。元が薄化粧だった分、目が小さくなったというのもない。
「みなぎ、ほんと肌白くない?日焼け止めどこの使ってるの」
「何も」
「下地とか……」
「◯◯です」
まさかの薬局コスメだった。
あたしはバッグに無理やり詰め込んできたバニティケースから、下地やファンデーション、カラー系のコスメを出していく。
ランチの時、あたしの目はみなぎを意識していた。彼女の優しい雰囲気には、きっと淡めのピンクが似合う。表情が明るくない分、強引に無邪気な色を加えれば、自然と生き生きしてくるだろうなとか、そうした空想に耽りながら。
あたしはみなぎと向かい合い、彼女のおとがいを支えて下地を整えていく。
タッチアップなど毎日しているのに、ここが店ではないせいか、ともすれば情事でも始める前の、少しよこしまな気分になる。顔が近い。パールの入ったプライマーは、まだはっきり毛穴を透かしている。