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貴女に溺れて彷徨う
第4章 変わらず捕まえていられたら



 莉世が帰って午後の業務を三時間ほどこなしたところで、大雅が店を覗きに来た。私の売り上げ報告に、彼の顔が気だるさを増す。


「勘弁してくれよ。これだけか?」

「平日はこんなものでしょ。昨日も一昨日も同じくらいじゃない」

「それはそうだが。俺が働きに出ていた間、お前はここに突っ立っていただけか」

「じゃあ私もよそで稼いでくれば良いの?」

「馬鹿なこと言うな、俺が行ってこいって言ったとしてだ。簡単にどこか見つかると思うなよ。第一、この店はどうする」

「なら、私は店を開けていた。それで何が問題なの」

「店を開けていたくらいで、偉そうな口、叩くな。こんなんじゃあゆみの塾どころか、今月の飯代も足りないぞ」


 そんなものは倹約すれば何とでもなる、と、喉元まで出かけた反駁を飲み込んだ。

 ここ数年で、大手チェーンの増加によって、私達のような個人経営のクリーニング店は、相当の痛手を負っている。大雅の気が立つのも無理はない。


「大家さんに相談してみよう。テナントの請求書を見る度に、毎月、私も頭が痛いわ」


 レジ締めの作業を進めながら、私は務めて明るく言う。
 消極的な議論をしても仕方がない。こんな時こそ協力して、家に帰ればそこが憩いの場となるべきだ。それが家族だ。事実、私は昔、ここで大雅と出逢って話して、癒された。

 莉世と会っている時しか生きた心地がしないなど、認めてはいけない。


「お前それ正気で言ってるのか」

「え?」

「大家に言って何とかなるか。ここの家賃も高いけどな、電気代はどうなる。家のガス代は。あゆみは来年中学だぞ?学費はどうするんだ、学費は」

「…………」

「あー、金ねぇわ。家売ってアパートにでも引っ越す方が安くつくか……。お前もな、切り詰めるなんて口だけだろ。化粧品だって、んな趣味に高い金かけやがって。散髪ももっと安い店行け。前から思ってたんだ、その色も余計だろ」
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