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貴女に溺れて彷徨う
第1章 眠り姫は魔法で目覚める
「…………」
キスしたいと思うのは、みなぎの唇が蛍光灯の光を弾いて艶を浮かべていたからだ。早くルージュで色づけて、美味しくなさそうにしてしまいたい。
「あの、派手なのは……あんまり……」
「了解。みなぎ見てたら、ある程度の好き嫌いは分かるから」
「さすがプロです」
「いや、貴女が分かりやすすぎるだけ」
ビューラーとマスカラだけは自分でさせて、あたしは化粧を完成させた。
髪色が明るい分、みなぎは少しベースメイクをしっかり施して血色を加えるだけで、見違えた。優香が酷評していたシャツと台形スカートも、問題は足元だと思う。靴やソックスを適当に選んでいなければ、悪くなかった。
「どう?」
「わ……」
全身鏡のカバーを外すや、みなぎは彼女らしからぬ声を上げた。
そう言えば、倦怠期を悩んでいるのだったか。
あたしは、まだ湿気ってもいないのに食べることを忘れられたぼうろを思い出す。飴やケーキのように華やかでなくても、ぼうろだって色々ある。噛めば甘いし、あの食感を作り出すのが意外と難しかったりする。