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貴女に溺れて彷徨う
第5章 見返りという甘い汁
「あゆみちゃん、疲れ取れた?そこ座って。先に髪巻いたりしておこう」
「有り難う。学校行ったくらいで疲れないよ。莉世さんに会えてテンション上がったくらい」
あゆみほどの長さがあると、ヘアアレンジの幅が広がる。あれこれシュミレーションした末、あたしは彼女の髪を高い位置でくるりんぱして、耳の位置で二つに結んだ。やはり彼女は、ツインテールのイメージが強い。細めのコテで巻いていくと、清楚だっただけの黒髪は、みるみる華やいでいって、あゆみの顔にも活気が増した。
ハリのあるマシュマロ肌をラベンダーのコントロールカラーとパウダーだけで整えて、ピンクとイエローを中心に色を加えて、睫毛や涙袋を強調していく。ほんのり色づくクリアグロスを塗ったところで、チャイムが鳴った。
「お母さん!」
正確に振り返れば、一ヶ月と十日振りだ。今日までにも何度もみなぎとの再会を想像しては、あたしは身構えてもいた。待ち望んでいた反面、想像を絶する感動に、胸が耐えられなくなるのではないか。
けれどあゆみの変身に逸る気持ちに押されるようにして、思いのほか躊躇いなく、あたしは玄関口の扉を開けた。
顔を見て、懐かしさに鳥肌が立った。こうも愛おしかったのだ。あとからあとへと言葉にし難い感情が、追いかけてくる。これだけの期間会えなくて、よく平気でいられたものだ。