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貴女に溺れて彷徨う
第5章 見返りという甘い汁
みなぎの話を要約すれば、稲本大雅がクリーニング店を畳んだ。
しかも初めは貯金を切り崩してでも踏ん張ろうとしたのが裏目に出て、大雅の以前のアルバイトを続けるだけでは家計がやりくり出来なくなったという。実家に身を寄せたのも家を手放したからで、新たな職探しも難航している。
「恥ずかしい話、親戚にお金を貸してくれる人がいないか、大雅も私もあちこちで頭を下げてきた。あゆみの入学費用、もうすぐ振り込み期限なの。それに今後のことだって……」
「で、見つかったの?」
「貯金ゼロの私達に、そんな親身な人いないわ。あゆみに言い訳も立たない。あゆみが勉強を始めたのは、四年生。あの子の三年間を無駄にさせるなんて、私には出来ない。でも、みんな私立なんて贅沢はやめて公立へ行かせろだとか、最近じゃ大雅まで諦めるべきかも……って言い出して」
そこまで聞いて、納得がいった。
みなぎは塾で他の保護者達に茶化されても、鈍感な振りをしているだけだった。あの時でさえ見せなかった顔が今、表に出ているのは、今回の件がそれだけ彼女を打ちのめしたからだ。普段ひなたや響のような女ばかり見ている分、化粧もまともに出来ていないのが、余計に分かる。
「だから莉世。良い思い出になった。中学のことだけは、絶対、諦めない。家具や他の洋服は少しでもお金にしないといけないけれど、今日のあゆみのだけは、あの子の宝物にするわ」
まぎれもない、別れの台詞だ。はっきりとした言葉より、分かりやすい。
みなぎの決意は固い。良人を頼れないなら自分が夜の仕事も視野に入れる、とまで口走る彼女の頭の中には、本当にあゆみしかいないのかも知れない。
それで構わない。大雅が大事だとでも言っていたらあたしも諦めたのかも知れないけれど、あゆみなら話は別だ。